自販機補充の給料は、ネットで言われているほど低くはありません。ただし「続けた人」の話です。
「自販機補充 給料」で検索すると、まったく噛み合わない数字が出てきます。平均年収406.5万円という統計。月23.3万円という求人の数字。そして体験談で語られる年収250〜360万円あたりの実感値。どれが本当なんだ、と思うのが普通だと思います。
私は現役の自販機ルートマンで、ペンネームは無糖といいます。この記事では、この3つの数字がなぜ食い違うのかを、中にいる人間の立場から答え合わせします。仕事の中身そのものは自販機ルートマンの仕事内容と1日の流れにまとめてあります。なお給料の細かい仕組みは会社ごとの差が大きい部分です。この記事も「どこでもこうです」という話ではなく、求人票を読むときの見方として受け取ってもらえたらと思います。
まず、出てくる数字が3つとも「違うものを数えている」
3つの数字が、それぞれ何を数えたものかを並べてみます。
| 数字 | 何の数字か | 出典・時点 |
|---|---|---|
| 406.5万円 | 「清涼飲料ルートセールス」の平均年収。賞与や残業代を含んだ総支給 | 厚生労働省 job tag(賃金構造基本統計調査)/令和7年(2025)調査 |
| 23.3万円/月 | ハローワークに出ている求人の賃金(月額)。賞与は含まない | 同 job tag/令和6年度 |
| 年収250〜360万円 | 体験談・口コミで語られる実感値。何を含んだ数字かは書かれていないことが多い | 職種解説メディア・個人の体験談/2020〜2025年の記事群 |
同じ職種の話をしているのに、含んでいるものが3つとも違う。ここが混乱の出発点です。特に見落とされやすいのが、求人票の月給にボーナスが入っていないこと。月給23.3万円という表示を見て、そのまま12倍して「年収280万か」と受け取ってしまう。この計算が、口コミの低い数字とほぼ重なります。
さらに求人票の月給には、固定残業代(あらかじめ何時間分かの残業代が含まれている給料)が混ざっている場合もあります。この話は後でもう一度書きます。
口コミの「250〜360万円」は、たぶん月給×12の数字
月23.3万円を単純に12ヶ月分にすると、279.6万円。口コミで見かける金額の、低いほうとほぼ重なります。近すぎて偶然とは思えない、というのが私の見立てです。
では、そこにボーナスを足すとどうなるか。賞与のある会社なら、この279.6万円に上乗せされます。年に何ヶ月分出るかは会社によってまるで違うので、仮の数字を置いて試算してみます。
| 計算の中身 | 年収 |
|---|---|
| 月23.3万円 × 12ヶ月(賞与を入れない) | 約279.6万円 |
| 仮に賞与が年2ヶ月分なら(×14ヶ月) | 約326.2万円 |
| 仮に賞与が年4ヶ月分なら(×16ヶ月) | 約372.8万円 |
| 上記に昇給分・残業代・売上に応じた加算分が乗ると | 400万円台に届く |
賞与を何ヶ月分と置くかで、年収は50万円も90万円も動きます。口コミの「250〜360万円」と統計の「406.5万円」の距離は、ほぼこの差で説明がつくということです。差を生んでいたのは働き方ではなく、ボーナスを数えているかどうかだったわけです。
口コミの帯の上のほう、350万円前後の数字も、これで説明がつきます。賞与がまったく入っていないわけではなく、一部だけ乗った状態の年収だと思います。1年目で賞与が満額出ていないか、そもそも支給月数が少ない会社か。どちらにしても、賞与という1行の入り方の違いです。
もう1つ思い当たるのが、ボーナスを満額もらう前に辞めた人の数字が口コミに多いのではないか、という点です。賞与は在籍期間に応じて減ることがあります。1年目や2年目で辞めた人が「自分は300万もいかなかった」と書けば、それは事実として正しい。ただ、その数字は続けた人の年収ではありません。
統計の406万円は嘘ではない。ただし「続けた人」の数字
では406.5万円という統計は盛られているのか。私はそうは思いません。数年続けて賞与が満額出るようになれば、400万円台には乗ります。
根拠になりそうなのが、同じ job tag に載っている平均年齢です。この職種の平均年齢は46.3歳(令和7年調査)。つまり統計の平均を作っているのは、勤続の長い人たちです。1年目の人の数字ではありません。
逆に言うと、入って1年目に23万円台の月給から始まるのは、この職種としては妥当な水準だと思っています。低いと感じるのは分かります。ただ、そこで止まる仕組みではない、というのが中にいる実感です。
まとめると、こういう話になります。統計の406万円は「続けた人の数字」。求人の23.3万円は「入口の数字」。口コミの250〜360万円は「入口の数字を12倍したか、途中で抜けた人の数字」。3つとも嘘ではなく、立っている位置が違うだけでした。
給料の中身は基本給+手当|何が付くかは会社で違う
給料は基本給に手当を足していく形で作られています。求人票に出てくる手当には、たとえば次のようなものがあります。
| 手当 | 中身 |
|---|---|
| 通勤手当 | 通勤にかかる交通費 |
| 時間外手当 | 所定の時間を超えて働いた分に支払われる残業代 |
| 営業手当 | 一定以上を売った月に加算される |
| 地域手当 | 勤務する地域に応じて支給 |
| 無事故手当 | 一定期間、事故を起こさなかった場合に支給 |
| 皆勤手当 | 欠勤なく出勤した月に支給 |
| 資格手当 | 保有する資格に応じて支給 |
大事なのは、この全部が付くわけではないということです。どれが付いてどれが付かないかは会社ごとにばらばらで、そこが同じ職種でも年収に差が出る一因になっています。名称は見慣れたものばかりでも、中身は会社しだい。
中でも売上に連動する営業手当は、売れた月に素直に上乗せされる分かりやすい手当です。ただし、給料の柱になるほどの幅ではありません。この話は後半の「インセンティブ」のところで詳しく書きます。
※会社によっては、営業手当が残業代の代わりとして支払われていることもあります。何に対して支払われる手当なのかは、求人票や面接で確認しておくと安心です。「営業手当は何に対して支払われるものですか」と聞くだけで済みます。求人票の見方については未経験から自販機ルートマンになる方法でも書いているので、応募前の人はあわせて読んでみてください。
みなし残業は求人票の必須チェック項目|残業は季節で山ができる
ルート配送の求人では、みなし残業(あらかじめ何時間分かの残業代を月給に含めておく仕組み。固定残業代とも呼ばれます)が設定されていることが多いです。ここは必ず見ておきたいところ。月給が高く見えても、その中に何時間分かが先に入っているなら、実際の時間単価は下がるからです。
そして肝心なのは、何時間分が含まれているかは会社によってまったく違うということ。ここに相場のようなものはありません。だから求人票で確認するしかないし、書かれていなければ「みなし残業は何時間分ですか」と面接で聞いてください。あわせて、超えた分がきちんと支払われるかも確認しておくと安心です。超過分は本来支払われるべきものですが、求人票の書きぶりだけでは運用まで分かりません。
業界全体の空気として、近年は残業を抑える方向に動いています。これは働く側にとって良い流れですが、裏を返せば、残業代をあてにして年収を作るのは難しくなっていくということでもあります。
ただし、残業は年間を通して平らではありません。増えるのは、ホットとコールドを入れ替える切替シーズン。あの時期は商品の入れ替え作業が一気に増えるので、どうしても長くなる月が出ます。逆に言えば、年間を通してずっと残業漬けというわけでもありません。季節で山ができる、というのがこの仕事の残業の形です。
「インセンティブあり」の求人に飛びつかないほうがいい理由
ここが、この記事で一番書きたかったところです。
求人票に「インセンティブあり」「頑張った分だけ稼げます」と書いてあると、成績次第で給料が伸びる仕事に見えます。私も入る前ならそう読んだと思います。でも中に入ってみて分かったのは、そこで言う個人の成績は、実質的には担当ルートの売上のことだという構造でした。
自販機の売上は、置いてある場所でほぼ決まります。人がたくさん通る駅前の自販機と、人通りの少ない場所の自販機とでは、売れる本数がまるで違う。同じ人が同じように働いても、担当するルートが違えば売上は変わります。
そして肝心なのは、そのルートを決めるのは自分ではないということです。誰がどのルートを持つかは、所長や副所長といった上長が決めます。売上の高いルートを任されれば数字は伸びるし、そうでなければ伸びない。頑張りより配属で決まるというのが正確なところです。営業のように自分で新規開拓して数字を作る仕事とは、そこが根本的に違います。
つまり「インセンティブあり」を「頑張れば稼げる」と読むと、期待と違うことになりかねません。正確には、稼げるルートを任せてもらえるかどうかで決まる仕組みです。
金額の幅も書いておきます。制度は会社によって違いますが、月ごとの上下は数千円から1万円程度に収まることが多いと感じています。生活が変わるほどの幅ではありません。インセンティブの有無だけで求人を選ぶ意味は、あまり大きくないと思っています。
昇給も役職も、大きくは変わらない
昇給はあります。ただ、大きくは変わりません。リーダーのような役職に上がっても、劇的に増えるという感じではないというのが、見ていての実感です。
だから、この仕事で収入を大きく伸ばしたいなら、道は2つしかないと思っています。役職を上げていくか、転職するか。
近い職種の平均年収も並べておきます。求人ボックス 給料ナビが2025年時点の掲載求人から算出した数字です。倉庫内作業が440万円、配送が429万円、ルート営業が427万円、ルート配送が413万円。劇的に高いわけではありませんが、比べる材料にはなります。それぞれの働き方の違いは辞めたい人の次の選択肢のほうで詳しく書きました。
それでも給料で選ぶのはおすすめしない|理由は金額ではない
ここまで「思ったより貰える」という話をしてきました。そのうえで、給料を理由にこの仕事を選ぶのは、私はおすすめしません。金額が低いからではなく、仕事量と給料が見合っていないと感じるからです。
job tag によると、この職種の月間労働時間は163時間(令和7年調査)。数字だけ見れば、極端に長時間の仕事ではありません。年収400万円台をこの時間で得られるなら、悪くないように見えると思います。でも実感としてはこの通りではない、というのが私の感覚です。
理由は3つあります。1つ目は体の負担。飲み物は重く、それを毎日何十ケースも運びます。2つ目は拘束時間。その日の分が終わらなければ帰れないので、終わりの見通しが立ちません。3つ目は休憩が取りにくいこと。休憩時間が決まっていない代わりに、忙しい日は取れないまま夕方になります。
年収400万円台という数字だけを見れば、悪い仕事ではないと思います。でも時間あたり、そして体の消耗あたりで割り算すると、話が変わってくる。私が「給料で選ぶのはやめたほうがいい」と言うのは、そういう意味です。
逆に言えば、1人で動ける気楽さや、成果が目に見える分かりやすさに価値を感じる人なら、給料は選ばない理由にはならないと思います。実際、私はまだ続けています。
まとめ|数字のズレは、ボーナスと勤続年数で説明がつく
検索で出てくる3つの数字は、どれも嘘ではありません。統計の406.5万円は賞与込みで、平均年齢46.3歳の人たちが作っている「続けた人の数字」。求人の月23.3万円は賞与を含まない「入口の数字」。口コミの250〜360万円は、月給を12倍しただけか、賞与が満額出る前に辞めた人の数字である可能性が高い。数年続けて賞与が満額出るようになれば、400万円台には乗ります。
求人票で気をつけるところは3つ。みなし残業が何時間分入っているかを見ること。手当が何に対して支払われるものかを確認すること。そして「インセンティブあり」を「頑張れば稼げる」と読まないこと。稼げるかどうかは、どのルートを任されるかで決まります。
そのうえで、収入を大きく変えたいなら役職を上げるか、外に出るか。すぐに動く気がなくても、他の職種がいくらなのかを知っておくだけで、今の給料の見え方は変わります。私も在職中のまま相場だけ見にいっている側の人間です。
給料の話は、身近な人には聞きにくいものだと思います。この記事が、その代わりになれば嬉しく思います。


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