ホットの切替えを始めるとき、私はまず設置先の方に「HOT作りますね」と一言かけます。断りなく中身を変えていい作業ではないからです。
そこで、こう返ってくることがあります。
「まだ暑いから次回でいいよ」
そう言われたら、その日はやりません。次の補充のときに、あらためて声をかけます。日付が来たから切り替える、という進み方ではないんです。
逆のこともあります。残暑が厳しかった年は断られることが多く、雨が続いて涼しい年は「ホットいつ作るの?」と聞かれます。同じ9月でも、年によって反応が変わります。
時期そのものについて言えば、私のところでは9月下旬から、だんだんと切替えが始まります。会社や地域によって違うと思うので、あくまで私の担当エリアの話です。
ただ、この記事で書きたいのは時期のほうではありません。「10月頃からホットが出ます」で終わっている説明が多いのですが、実際は日付が来たら勝手に温まるわけではない。あの「あったか〜い」が並ぶ前に、1台ずつ人の手で設定を変えています。その中身を書きます。
切替えは、扉を開けて中身を組み替える作業です
前提を少しだけ。いまの自販機は、1台の中でホットとコールドを同時に出せます。中はコラムという単位に分かれていて、そのコラムごとに温めるか冷やすかを分けているからです。
ただし、1台の中でホットにできる場所は決まっています。どの列でも好きに温められるわけではありません。36セレ(6列×6段)の自販機だと、ホットにできるのは6列のうち3列。1列に6コラムあるので、1〜18コラムの範囲で最大18種類までです。残りの半分は、どうやってもコールドのままです。あとで出てくるペットボトル用のラックも、その温められない場所のひとつです。
私たちがやるのは、「この列をホットにする」と決まったあとの中身の作業です。HOT/COLDのスイッチを切り替えて終わり、ではありません。
最初の切替えでは、全部ホットにしません
外から見ていて一番不思議に見えるのは、たぶんここだと思います。
切替えといっても、一度に全部をホットにするとはかぎりません。まとめて切り替えるところもあれば、何回かに分けて少しずつ増やしていくところもあります。分けてやる場合、最初に温める範囲はごく一部です。そこから寒くなるにつれて、少しずつ広げていきます。
だから外から見ると、9月に「あったか〜い」が一部だけ現れて、しばらくしてから増えている。そういう見え方になります。
9月下旬に全部ホットにしないのは、商品と気温の両方が理由
理由は3つあります。
1つめは、さきほど書いた自販機の側の事情です。36セレなら上限が3列と決まっている以上、どうがんばっても全部は温まりません。
2つめが、冬にしか出ない商品がまだ並んでいないことです。コーンポタージュがその代表で、9月下旬の時点ではまだ出てきません。コーヒーやお茶のように、ホットにもコールドにも入れられる商品はあります。ただ、それだけでは冬の品揃えになりません。
3つめは、単純にまだ暑いことです。9月下旬にホットを増やしたところで、売れません。
だから最初の切替えは、いま出ている商品と、その時期の気温に見合う範囲にとどまります。
これは会社ごとの運用ではなく、商品が出てくる時期と気温の話です。「9月下旬なのに、なぜホットが少ししかないのか」の答えとしては、たぶんどこの自販機でもだいたい同じことが起きています。中の人がサボっているわけでも、切り替え忘れているわけでもありません。
ホットにする列から、コールド専用の商品を抜く
ここから実際の作業です。
ホットに切り替える列にコールド専用の商品が入っていたら、抜きます。炭酸や果汁系のように、温めてはいけない商品を温めるわけにはいきません。売れ行きが良かろうが、その列をホットにすると決めたなら抜きます。切替時期に抜く商品が増えるのは、これが理由です。
抜いた商品は捨てません。まず、同じ自販機のペットボトル用のラックに空きがあれば、そちらに移します。ペットボトル用のラックはさきほど書いた「温められない場所」のひとつなので、コールド専用商品の行き先としては都合がいいんです。売れている商品なら、よそに回すより同じ自販機の中で売ったほうがいい。
空きがなければ、トラックに片付けます。そのあと回った自販機で入りそうな所があれば、そこで使います。抜いたその場で行き先が決まるわけではなく、いったんトラックに戻して、使えるときに使う、という流れです。
コールドの表示をホットに変える
抜きが終わったら、表示をホットに変えます。
見本の下に「つめた〜い」「あったか〜い」と出ますよね。あれと、見本の後ろのパネル。どちらも表と裏で色が違うだけなので、ひっくり返せば終わりです。作業自体はこの中で一番軽い。ただ、変え忘れると冷たいと思って買った人に温かい缶が出てくるので、飛ばせない工程ではあります。
見本(サンプル)を並べ直す
表示を変えたら、お客さんから見える見本を並べ直します。
ホットの商品が見本の上でまとまるように寄せる作業です。温かいものがあちこちに散らばっていると、買う側が探しにくい。だからひとかたまりに集めます。ホットの見本を置く位置自体は毎年決まっていて、そこは動きません。切替の段階が上がってホットが増えていくと、その決まった場所を起点に、オセロをひっくり返すようにコールドがホットへ変わって、かたまりが広がっていきます。
外から見れば「並びが変わったな」くらいの変化だと思います。でも、あれは自然に変わったのではなく、私たちが扉を開けて、その日に並べ替えています。
最後に、中のコラムと表のボタンをつなぎ直す
ここまでで、中の列の役割も、表の見本の位置も変わりました。最後に、その2つをつなぎ直します。
よく混同されるのですが、自販機の中の並びと、表から見える見本の並びは、そのまま同じ形ではありません。中でホットにできるのが1〜18コラムだからといって、表の見本がその順番で並ぶわけではない。中は中、表は表です。
だから、どのボタンをどのコラムにつなぐか、というコラム設定があります。ここを合わせて、はじめて押したボタンの商品が出てきます。逆に言えば、ここがずれていると、抜きも表示も見本も正しいのに、違う商品が出てきます。
このつなぎ方を使えば、1つのコラムに2つのボタンをつなぐこともできます。表に同じ商品が2つ並んでいるのは、これが理由のひとつです。詳しくは自販機に同じ商品が2つ並んでいるのはなぜ?に書きました。
1台の補充で普段やっている流れそのものは自販機1台の補充、実際は何をどの順でやっているのかに書きました。切替時期は、その流れの中に上の作業が上乗せされます。
切替時期は「回れる台数が減る」より「1台が長くなる」
正直、この時期は忙しくなります。ただ、忙しさの出方に特徴があって、回れる台数がガクッと減るというより、1台あたりの時間が延びます。
普段の補充だけなら終わっていた1台に、抜きと並べ替えと表示の変更が乗る。体感で、通常より10分ほど延びます。1台なら10分ですが、その日に切り替える台数が多いほど、そのぶん終わる時間が後ろにずれていきます。
この話は自販機補充はきつい?楽?でも触れました。季節の変わり目がバタバタするのは、気温のせいというより単純に作業が増えるからです。
切り替えたあとのほうが、地味に気を使う
意外かもしれませんが、切替えが終わったあとのほうがやりにくくなります。
ホットとコールドの両方に、同じ商品が入るからです。缶コーヒーがわかりやすくて、冷たいのも温かいのも同じ商品をセットすることになる。すると補充のときに、どっちに何本入れるのかを確認しながらやらないといけません。
手元に同じ商品があって、行き先がふたつある。ホット側に何本、コールド側に何本、と分けて補充します。1台なら大したことはないのですが、これがホットの期間中ずっと続きます。夏場の「コールドに全部入れればいい」とは、頭の使い方が違います。
ホットは約2週間で抜く。これが冬のあいだずっと続く
もうひとつ、ホットの期間中ずっと続く作業があります。温めて売っている商品を、2週間くらいで抜くことです。
長く温め続けると味が落ちたり色が変わったりするからで、これは自販機ルートマンの仕事内容にも書きました。
この日数は、私が勝手に決めているものではありません。商品のケースの段ボールに、HOT販売は14日を目安にという表記があります。私が言っている2週間は、これのことです。それに従っている、というだけの話です。自販機だけの特別な話でもなくて、コンビニのホット飲料も同じくらいの期限で管理されているはずです。
誤解されやすいのは、これを切り替えた直後だけの作業だと思われることです。実際は、ホットを出しているあいだずっと回り続けます。切替が済んで落ち着くのではなく、そこからは「入れて、2週間で抜いて、また入れて」の繰り返しです。
冬に抜く商品が多くなるのは、これが理由です。
12月初旬にはほとんど切り替わり、3月下旬から戻し始めます
1年で見ると、こういうサイクルになります。
9月下旬に切替えが始まり、冬の商品が出そろうのに合わせてホットの範囲が広がって、12月の初旬ごろにはほとんど切り替わっています。9月から12月まで、三か月近くかけて「あったか〜い」が増えていく計算です。
戻すほうは3月下旬から、だんだんとコールドに戻していきます。こちらも一度に全部ではなく、段階的に減らします。梅雨明けごろに、コールドへの切替作業が終わります。
付け加えておくと、設置先によっては通年ホットを残しているところもあります。夏に「あったか〜い」が付いた自販機を見かけたことがあるとしたら、切替え忘れではなく、一年中ホットのままにしている設置先です。
季節が来たら街じゅうの自販機がいっせいに衣替えしている、というわけでもありません。
自販機のホットは、そういう手間の結果として並んでいます
「自販機 ホット いつから」の答えとしては、9月下旬から少しずつ、が私の実感です。
少しずつにしかならないのは、そこに人の手が挟まっているからです。設置先に一声かけて、断られたら次回に回して、1台ずつコールド専用商品を抜いて、表示を変えて、見本を並べ直して、コラム設定をつなぎ直す。そもそも温められない場所が決まっているうえに、最初は出ている商品と気温に見合う範囲までしかホットにできません。冬の商品が出そろう12月初旬になって、ようやくほとんどが切り替わります。
寒くなってきた日に「あったか〜い」が増えていたら、その少し前に、私たちがその自販機の扉を開けています。


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