自販機のルートマンというと、「黙々と一人で補充する仕事」というイメージを持たれる方が多いと思います。
実際、その通りの面もあります。一日の大半は、車を運転して、商品を積み下ろして、自販機に補充して、また次の場所へ。人と話す時間より、機械と向き合っている時間のほうが圧倒的に長い。仕事そのものの流れは自販機ルートマンの仕事内容と1日の流れにまとめてあります。
ただ、まったく人と関わらないかというと、そんなことはありません。設置先の事務所に一声かけたり、通りがかりのお客さんに話しかけられたり。そして、その数少ない接触の中で、なんとも言えないモヤモヤを持ち帰ってしまうことがあります。
今回は、実際にあった出来事を2つ紹介します。
「めんどくせーなぁ」と言われた日
とある会社の敷地内に、担当している自販機があります。
ある時期から、その自販機のちょうど前に、一台の車が停まるようになりました。ぴったり真ん前です。
これが地味に困る。自販機は扉を手前に大きく開けて補充するので、目の前に車があると物理的に開けられません。無理に開けようとすれば、車に当ててしまう可能性もある。他人様の車に傷でもつけたら、こちらの責任問題です。
仕方がないので、事務所に行ってお願いすることにしました。
「すみません、自販機の前の車を移動していただいてもいいですか?」
自分としては、できるだけ丁寧に伝えたつもりでした。返ってきたのは、
「めんどくせーなぁ」
事務の方でした。移動はしてもらえたのですが、その一言だけがずっと耳に残りました。
こちらは仕事で来ていて、扉が開けられなければ補充ができない。文句を言ったわけでも、責めたわけでもなく、ただ移動をお願いしただけです。それでも、悪いことをしたような気分になって帰ることになりました。
結局、こちらが合わせることにした
その後どうしたか。
次の補充からは、朝一番に行くようにしました。その方が出勤して車を停める前に、作業を終わらせてしまう作戦です。
これが、うまくいっています。誰にも声をかけずに済むし、モヤモヤすることもない。
筋を通すなら、こちらが行動を変える必要はなかったのかもしれません。ただ、停めている側からすれば、補充のたびに扉が大きく開くことなんて知らなかった、という話でもあります。それに、こちらの都合で毎回声をかけられるほうも、たぶん面倒だったのだと思います。角を立てずに済むなら、それが一番早い。
幸い、その自販機は月に一度ほどの補充頻度なので、朝一に合わせるのも大した負担ではありません。無理なく続けられているうちは、これでいいと思っています。
設置先とトラブルを起こしても、いいことは何もありません。この「自分が合わせる」という選択は、ルートマンをやっていると自然と身についてくる感覚かもしれません。
「じゃなきゃ言わないですよ」
もう一つは、道の駅での話です。
作業をしていると、片手にお弁当を持ったおじさんに声をかけられました。色黒でTシャツ姿。トラックの運転手さんかな、というのが第一印象でした。
「すみません、90リットルのゴミ袋ありますか?」
正直、一瞬固まりました。この人は誰だろう。お弁当のゴミでも入れるつもりだろうか。
戸惑っていると、続けてこう言われました。
「ゴミ箱の袋がなくなっちゃったみたいで」
そこでようやく、ああ道の駅の方か、と見当がつきました。とはいえ確証はありません。一応、確認することにしました。
「道の駅の方ですか?」
「じゃなきゃ言わないですよ」
……その言い方をされると、確認したこちらが悪いみたいになってしまいます。
確認するのは、おかしなことでしょうか
初対面で、名乗りもなく、用件だけを言われた。相手が誰なのか分からない状態で確認するのは、そんなに変なことでしょうか。
こちらから見えていたのは、お弁当を持った知らない人が、いきなりゴミ袋をくれと言ってきた、という状況だけです。名乗ってもらえれば一秒で済んだ話で、確認したのはむしろ普通のことだと思っています。
ともあれ、ゴミ袋自体は渡すつもりでした。
ただ、その時ちょうど、自販機とハンディ端末(売上を読み取る小さな携帯型の機械)が通信している最中でした。終わるまでその場を離れられません。なので、こう伝えました。
「ちょっと待ってください」
すると、
「だったら、いいです」
そう言って、行ってしまいました。
渡すのを渋ったわけではありません。少し待ってもらえれば済む話でした。それなのに、こちらが断ったような形で去られてしまい、後味だけが残りました。
共通しているのは「正しく対応したのに損をする」構造
この2つの話、内容はまったく別ですが、実は同じ形をしているなと思っています。
こちらは丁寧にお願いした。あるいは、当然の確認をした。対応そのものは間違っていない。それなのに、相手の態度ひとつで、なぜかこちらが悪者になったような気分で終わる。
理不尽な目に遭ったというほど大げさな話ではありません。怒鳴られたわけでも、クレームを受けたわけでもない。ただ、心にうっすらとシミのようなものが残る。
そして厄介なのは、この手のモヤモヤは誰かに話しづらいということです。「そんな些細なこと」で片付けられてしまいそうで、飲み込むしかない。
同じような経験、接客業や配送業をされている方なら、心当たりがあるのではないでしょうか。
自販機ルートマンは、たしかに一人で黙々とやる仕事です。それでも、人と関わる以上、こういうことは起こります。
念のため書いておくと、行く先々でこんなやり取りがあるわけではありません。声をかければ気持ちよく車を動かしてくれる人のほうが多いし、「暑いですね」と声をかけてくれる人もたまにいます。むしろそちらが日常で、だからこそ今回のような場面が記憶に居座るのだと思います。
それでも、相手を選べない仕事である以上、こういう場面をゼロにはできません。そこがどうしてもしんどいなら、働き方そのものを見直す話になってきます。それについては辞めたい人の次の選択肢のほうで整理しました。
またモヤッとする出来事があれば、書き残していこうと思います。


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