前回、自販機ルートマンとして遭遇した理不尽な出来事を書きました。今回はその続きです。
もう何年も前、取引もとっくに終わっている話なので書けることですが、当時はかなり肝を冷やしました。
ケースで納品していた得意先の話
ルートマンの仕事は自販機の補充だけではありません。飲料をケース単位で納品する得意先もあります。
その中に、少人数で回している小さな取引先がありました。
そこには、入り口が2つありました。正面の入り口と、その左隣、作業スペースとつながっている入り口です。
2つの距離は、歩いて10歩もありません。すぐ隣同士で、しかも入った先は同じ部屋です。どちらから入っても、行き着く場所は変わりません。
そして、納品で車を停める位置からは、左側の入り口のほうが明らかに近い。だから自然と、そちらを使うことが多くなっていました。
一度目の注意
ある日、いつものように左側の入り口から入ろうとしたとき、たまたま若い従業員の方がいて、こう言われました。
「そっちから入るな」
正直、ピンときませんでした。
これまで何度もその入り口を使っていて、他の方からは一度も注意されたことがなかったからです。禁止されている場所という認識がまったくなかった。
なぜ駄目なのか、理由の説明もありませんでした。
なので、その日の最後、集金に行くときに、また左側の入り口を使ってしまいました。車から近かったので、深く考えずにそうしたというのが正直なところです。
「入るなって言ってんだろ!」
その瞬間、怒鳴られました。
「入るなって言ってんだろ!」
さらに、こう続きました。
「他の会社でも従業員入り口から入るのかよ!」
心の中では、「いや、従業員入り口から入る取引先もありますけど」と思っていました。実際、業者は裏口や作業場側から出入りするのが普通、という取引先だってあります。
そもそも、どちらの入り口から入っても同じ部屋にたどり着きます。何がそこまで問題なのか、正直よく分かりませんでした。
でも、口には出しませんでした。
その方は自分よりずっと体格のいい人です。それが至近距離まで詰めてきた。
これはまずい、と思って、ひたすら平謝りしました。
正しいかどうかより、安全かどうか
あとから思い返しても、あの場面で反論しなくてよかったと思っています。
理屈で言えば、こちらにも言い分はありました。一度目に注意されたときに理由の説明はなかったし、他の方からは何も言われていなかった。使ってはいけない場所だと認識する材料がなかった。
でも、目の前に体格のいい人が怒鳴りながら迫ってきている状況で、正しさを主張することに意味はありません。
謝って、その場を収める。それが一番でした。
その後どうしたか
結論から言うと、納品の時間帯を変えました。
その方は午後になると用事で出かけ、不在になる日がほとんどでした。だから、午後の時間に行くようにしたのです。
これは自分で考えたというより、別の方から「午後のほうがいいよ」と教えてもらったのが大きい。
つまり、取引先の側も分かっていたということです。あの人がいる時間は避けたほうがいい、と。
そう分かってから、少し気持ちが軽くなりました。自分が何か特別にまずいことをしたわけではなく、そういう人だから、という話だったのだと。
こちらが間違っていなくても、反論はできない
ルートマンをやっていて思うのは、この仕事は相手を選べないということです。
正確に言うと、取引そのものには選ぶ余地があります。設置をお願いされて始まることもあれば、条件が合わずにお断りすることもある。売上が伸びないまま続く自販機なら、こちらから引き上げをお願いすることだってあります。
選べないのは、そこにいる人のほうです。取引を始めるかどうかは決められても、その先で誰が出てくるかまでは分かりません。そして、人が合わないというだけの理由で取引をやめる、という話にはなりません。
こちらは商品を届け、相手はそれを必要としている。本来は対等な取引のはずです。それでも、こじれたときに失うものが大きいのはこちら側です。
もしトラブルになって、自販機を引き上げることになったら。取引がなくなったら。困るのはこちらです。会社にも迷惑がかかります。
だから、こちらが間違っていなくても、反論という選択肢はほぼありません。
その代わりにできるのは、相手と衝突しない工夫だけです。時間帯をずらす。動線を変える。相手がいないタイミングを狙う。
前回書いた「自販機の前に停まる車」の話も、結局は朝一に行くという形で解決しました。今回も、午後に行くという形でした。
やり方はいつも同じです。相手は変えられないので、自分が動く。
この「相手を選べない」というのは、性格の話ではなく仕事の性質の話です。ここが自分に合っているかどうかは、続けるかどうかを考えるときの材料になります。同じ運転の仕事でも、人との関わり方は職種によってかなり違うので、そのあたりは辞めたい人の次の選択肢で整理しました。
それでも続けられる理由
こう書くと、しんどい仕事だと思われるかもしれません。
たしかにこういう場面はあります。ただ、実際のところ、こうした出来事は年に数えるほどです。ほとんどの取引先は普通に接してくれますし、顔を覚えて世間話をしてくれる人もいます。
だからこそ、こういう出来事が記憶に残ってしまうのかもしれません。
またモヤッとすることがあれば、書き残していこうと思います。


コメント